最高裁判所第一小法廷 昭和33年(オ)379号 判決
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人弁護士加賀竜夫、同加藤定蔵の上告理由第一点について。
しかし、原判決挙示の証拠を照合すれば、所論判示の事実認定は首肯できないわけのものではなく、右認定の過程に所論の違法を見出し得ない(判示の小作権譲渡については必ずしも所論の詳細を審究判示しなければならないわけのものではない)。所論はひつきよう、上告人が相手方の主張と異る立場の下に原判示と相容れない事実を主張しつつ、原審の専権に属する証拠の自由な取捨判断並びにこれに基いてなされた自由な事実認定を非難するに過ぎないものであつて採るを得ない(なお、所論乙第一号証の内容は必ずしも原判示認定の反証となるわけのものでもなく、また所論船山惣治郎の証言の一部は原審これを措信していないのである)。
同第二点について。
しかし、所論原判示の事実は所論人証によつて認定できないことはなく、従つて原判決には所論の違法ありというを得ない。
同第三点について。
しかし、臨時農地等管理令七条の二は、その当時わが国のおかれていた事情に鑑み農地を耕作地として確保する趣意の下に取締りの目的を以て設けられた規定であると解すべきであるから所論原判示の小作権譲渡の契約が地方長官の許可を受けていなかつたからといつて、それだけの理由で当然に無効となるものではない(昭和二八年九月一五日第三小法廷判決、集七巻九号九四二頁以下及び同二九年七月一六日第二小法廷判決、集八巻七号一三七三頁以下各参照)。所論は右に反する独自の見解に座するものであつて、採を得ない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 高木常七)